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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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みそ豆をこっそりつまみ食いしようとしたお店の旦那が…

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 みそ豆をこっそりつまみ食いしようとしたお店の旦那が、誰にもじゃまされずに1人になれる場所で、と入ったのが「はばかり」すなわちトイレ。そこへ同じことを考えた小僧さんが入ろうとして鉢合わせする▲落語「味噌(みそ)豆」は、「何しに来た」と聞く旦那に、小僧さんが「おかわり持って来ました」と当意即妙に返すのがオチだ。昔は「はばかり」と言ったのは、人目をはばかって行く所だったからだろう。とはいえ誰しも毎日入らざるをえない▲そこに目を付け、トイレに掛けることにこだわったメッセージ付きカレンダーを制作している。グラフィックデザイナーの財津昌樹さんだ。1992年のリオデジャネイロでの地球サミットと歩調を合わせて始めたという▲2020年版が29作目となる。「新聞を取っていない人が多い、本を読む人は少ない。でもトイレにはみんな行きますから」と財津さん。1カ所に張れば、家族全員の目に留まるとのもくろみだ▲今は環境問題だけでなく、政治や平和、マナーなど機知に富んだ言葉を月ごとに託す。共感ばかりではないだろうが、関心を持つことが変化につながるとの思いを込める。今年最後の月は「なんなんだ」というタイトルだ▲「自分の親は2人/その親は4人(略)30世代さかのぼると10億人/みんなつながっているんだよ」と自国第一主義や人種差別がナンセンスだと説く。1人になって誰はばかることなく考える。情報の波におぼれそうな現代、トイレは貴重な場所かもしれない。

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